竹﨑和征「玉虫とねずみ」
2023.10.14-11.19
オープニングレセプション 2023.10.14 14:00-18:00
この度MISAKO & ROSENでは、竹崎和征の7回目の個展「玉虫とねずみ」を開催いたします。2015年以降、高知、小豆島、丸亀と制作環境の変化とともに新たな風景絵画への施策が始まりました。近年の主な展覧会に「丸亀、ミルウォーキー」ザ・グリーン・ギャラリー、ミルウォーキー (2023年個展)「Kazuyuki Takezaki」Saanew Vitrine by Marc Jancou、ザーネン、スイス(2023年個展)「雨が降って、晴れた日」高知県美術館、高知(2020年個展)「Painters」中田美術館、広島(2019年グループ展)「絵画の在りか」東京オペラシティアートギャラリー(2014展 グループ展)「リアルジャパネスク:世界の中の日本現代美術」国立国際美術館(2012年 グループ展)などがあります。
2023年11月には、越後妻有MonET連続企画展としてアーティスト西村有とのコラボレーション企画「続・並行小舟唄 翠のうつわ」展を越後妻有里山現代美術館にて開催する予定です。
玉虫とねずみ 竹﨑和征
瀬戸内、香川県丸亀の平野で暮らしていると、日中の景色、空気は白くけぶっていることが多い。
白くやわらかな青は、夕暮れになり、黄味がかかってくると世界は途端に複雑に美しい色になる。作品のタイトルを「オレンジ」としてあるものは、ただその色を追っている。鮮やかな時間をずっしりと支えるのは、少しずつ暗くなってゆく中、たくさんの色が織り成すグレーになる。美しい光には同時に美しいグレーが存在するように思う。
夕暮れの時間には透明不透明の二色で水平に上下分けされたような町の景色もよく見られる。平野らしい水平が軸になる景色。ベタ塗りガッシュのような澱んだグレーの空に、町の色や木々がビカビカに輝いているさま、また逆に、町は暗くどんよりなのに空の色は明るく、重なる、つらなる、深い透明色だったり。
最近、パレットの上は住む町の夕暮れのようだと思ったりする。混色して必要な色を作り出す行為、その大半は無意識下で絵を支えるグレーを求める作業なのではないかと。僕はこの町に流れる死生観とも合わさりながら絵の具を捏ねているようにも思う。
【作品についての覚書】
彼岸
人間以外の生物には死の概念が無いという話を聞いた
なら、この世なんてものがあるのなら、それは人間の世界そのもので
あの世、とよばれるところは、自然といわれる場所なのかと思ったりする
僕が住んでいる土地には、ぽつぽつこの世とあの世を繋ぐような場所がある
秘密の場所
その湧水は河川敷と県道に挟まれ木々に囲まれ隠れている
図らずも都市の構造が、湧水を人間から守っていた
古来よりこの土地には水が少なく、湧水は大事であった
けれども現代、水道整備が進み、人間にとって湧水は有事まで不要になった
人が踏み込まないこの湧水を取り囲む木々にはたくさんの鳥がいて
僕はこの美しい場所をたくさんの人に見てもらいたくない
雑草
ある日の散歩、コンクリートのあぜ道で枯れそうな雑草を見た
ひびから立ち上がり、西日に照らされ、名前も知らないが美しい
立ち止まっただけ、気づいただけの小さな話
小さな出会いが自分の世界を変えたりするのは本当で、
まあ、僕はその雑草に一方的に出会い、たぶん一生忘れない
ダブル・ネガティブ
町の南、東西に二重の山脈が走る
山脈は風雨から町を守り、
山脈は町への水をすべて止める
最後の漁師
田舎の人間にとっても自然の嗜みはアウトドアとなり
享受するには豊かな場所まで車でゆかねばならない
浦島伝説の残る半島の付け根に、小さいがとても美しい砂浜がある
僕はそこでいかにも強面、焼けた肌に大きなサングラスをかけた初老の男と会った
男は浜が見渡せる家に住み、浜の清掃をし、不法投棄を監視しているという
この集落では最後の漁師だと、このサングラスで不法投棄の輩に脅しを効かせるんだよ、と笑っていた
玉虫とねずみ
玉虫はチューブから出された色たち、
ねずみはパレットで捏ね回され余った絵の具のあわさり
玉虫は絵をつくり、ねずみが絵を支える
僕の住む町の光はあいまい、美しく汚く混ざり合っているさま