スティーブン G・ローズ「7 Bankers and A couple of Brokers unpack a library」

2012年3月4日(日) - 4月15日(日)

オープニングレセプション(サンデーブランチ)3月4日(日) 13:00-16:00
※オープニング当日は日曜の通常営業時間通り17時までとなっております。

親愛なる弟へ
何ヶ月もの愚行と堕落の果てに、ようやく仕事に集中する日々を過ごせるような気力が蘇ってきた。嗚呼、とはいえ今、自分がひどく疲れて役立たずであることを感じているのも事実だけれど。でも君の助けがあれば、またすぐに気力が漲るはず! きっと大丈夫、物事がそれなりに、というか、かなり良い感じに進んでいくことはわかっている。今や、手元にある資産に詳しくなることしか、僕に選択肢はないんだし。でも同時に、手元に何がないのかもわかっている。いま手元にあるものについては、何度も何度も数えたからよくわかっている。最後に数えたとき、それは516だった。おそらくこれは、僕の頭に生えている白髪の総数に違いない。でも、もしかしたらもっと必要かもしれない。たぶんあと500本の毛髪(500冊の本)が。そうすれば、頭をまるごとひとつ手に入れることに近づけるかもしれない。こんな作業はくだらないと君は考えるだろう。お金を数えてるわけじゃないんだし。でも、一本の毛髪が美術作品に生命を吹き込むことの価値と力を否定することは君にもできない――イメージの幽霊たちはまた生命力を取り戻す…。図書館なんてものを見つけ出すには、犠牲を払わなければならない。僕は喜んで、自分の図書館を金融資産として会社に登録することだろう。僕たちはみんな賃借人だ。君が僕にお金をくれて、生産することへの気迫を蘇らせ、失ったものが返還されるのを見ることができたなら、どんなに良いだろう。たしかに現時点では、私が動き始めるには最低でもあと少し必要だ。ひとつはだいたい1500マルク、もうひとつは120マルク。でもそれは、その場しのぎでしかないだろう。少なくとも、さらに、1年に2000マルクほど僕ひとりで必要になる。これを実行するために、僕たちは勇気を持つ必要がある。
君の兄――A.W.より

スティーブン G ローズは1977年テキサス州ヒューストンで生まれ。2005年アート・センター・カッレジ・オブ・デザイン、パサデナ(カリフォルニア)を修了。現在はベルリンとニューオリンズを拠点に、様々な都市で国際的な展覧会に勢力的に参加しています。主な展覧会にミグロス美術館での個展(2012年開催予定)、CCAワティス・インスティチュート・オブ・コンテンポラリーアート、サンフランシスコ(2011年)、ハマー美術館、ロサンゼルス(2010年個展)、ルベルコレクション美術館、マイアミ(2009 – 2010年), 「The Generational : Younger Than Jesus」ニューミュージアム・オブ・コンテンポラリーアート、ニューヨーク(2009年)、「Prospect. 1」ニューオリンズ (2008-2009年) 「between two deaths」 ZKM, センター・フォー・アート・アンド・メディア、カールスルーへ(2007年)などがあります。

ローズはこれまでにマルチメディアなインスタレーションという形式を用い歴史的・文化的な素材を融合させた作品を発表しています。2009年にMISAKO & ROSENで開催した日本初個展ではディズニーの初の実写映画「南部の唄」(Song of South)を題材にした作品を発表しました。熊に扮した彼自身をディズニーの実写映画の物語に入り込ませ、スタンリー・キューブリックが映画化したスティーブン・キングの「シャイニング」からの音と映像をサンプリングや繋ぎ合わせといった触覚的な過程を経ることによって、結果として生じるインスタレーションが、もともとの素材に隠れていた二次的な意味や物語をさらけ出すというローズの試みを成功させています。
日本での2度目となる本展覧会でローズは、ある特定の人物を元に歴史的な物語に着目しています。これまで「Vacant Portrait」と題したポートレイト作品を発表してきました。このシリーズにおける肖像は、幽霊の陰影のような画風にそれぞれがキャスティングされた状態で演出されています。このポートレイトシリーズの展開により今回の展覧会タイトルを「7 Bankers and A couple of Brokers unpack a library」と題し、ハンブルグの富裕なユダヤ人銀行一族のひとりとして生まれ、鬱病を煩った美術史家アビ・モーリッツ・ヴァールブルク(Aby Moritz Warburg)を題材にしています。今だ、銀行一族として存在するその富豪一族のスペクタルな存在と歴史の物語を絵画と映像インスタレーションを通して発表いたします。 この機会にどうぞご高覧下さい。