廣直高「人違い/Wrong Person」

2008年10月27日ー11月23日

オープニングレセプション 10月27日 18:00-20:00

廣直高は、1972年大阪生まれ。1997年カリフォルニア大学(UCLA)ロサンゼルス校卒業。2000年カリフォルニア・インスティチュート・オブ・ジ・アーツ(CALARTS)修了。1990年代以降アメリカに渡り、現在は、ロサンゼルスを拠点に制作活動を行っています。主な個展に「何も知らない」展 2007年 MISAKO & ROSEN(東京)、「Naotaka Hiro」展 2008年 The Box (ロサンゼルス)があります。

廣の作品のコンセプトである「無知」の世界―自分という間違いない存在であるにも関わらず肉眼で確認することのできない自身の身体―は、本展覧会においても重要な役割を果たしています。前回の「何も知らない」展においては、骸骨に米をのせる行為により、自分の頭部を再現することを試みました。また、かつて西洋の探検家たちが観たという真偽の疑わしい秘境風景画に自らの尻をコラージュする作品「Ass Fall」(2004―2007)を発表しました。廣いわく、これらの作品は、永遠に直視することの出来ない自分の身体部位に対する膨れ上がる妄想(無知/未知/畏怖)とジレンマをテーマにしています。今回の「人違い/Wrong Person」展の題材もまた、この延長上にあります。

立体作品である「甘蜜山(Mt. Sweet Honey)」は、作家自身の臀部を単独で型をとり、蜜蝋と蝋を混ぜたものを流し込んだものです。スタジオで全ての行程を一人で行う不都合から正確な型にはならず、従って彫刻もどこか歪なつくりとなります。

映像作品の「夜と霧、黄色い火山(Night and Fog, Yellow Volcano)」は立体作品である「Mt. Sweet Honey」と同じく、立ったままの姿勢の型を基に、石膏に蜜蝋でコーティングしたものを撮影用セットとして使用しています。「Ass Fall」での試みと同様に、自身の身体部分を想像上の景色のなかに置いています。「Ass Fall」が秘境にて発見された風景であるならば、今回は、自ら秘境を探索し、撮影しに行くような感覚だと言います。廣はこの作品について「僕はカメラを手に、自分の股ぐらをくぐり抜け、尻を撮影しようとする。ぐらぐらと不安定な姿勢。背中が強烈に痛い。無理な体勢を維持しつつ、すこしづつ、ずらすように体を伸ばしていき、なんとか成功する。そこで見た風景は真夜中で、黄色い山が光り輝いている。その山は甘い蜜の香りを発しながら、激しく、絶え間なく噴火を繰り返している。」と構図を説明しています。

MISAKO & ROSENにて2度目の個展のなる本展覧会を廣は、「人違い」とタイトルをつけました。今回は、立体彫刻、映像、ペインティングといった構成により展開される予定です。

「人違い/Wrong Person」展のおぼえ書き 廣直高

今年のはじめ、巨大な身体部分で構成される風景画の小さいペインティングの連作を制作しました。精液/ミルクのように白濁した湖、山間をうねる陰茎の形をした巨大蛇、地中に埋まるいくつもの目玉、切れても切れても生え続ける指のような根っこ。そして、煙をはきだす尻の形をした火山。これらは、私が語る説話/神話のようなものであり、短編の映像作品のためのストーリーボード/脚本でもあります。今回はその物語から一場面、「尻の火山」の部分をもとにいくつかの作品を制作しました。

「人違い/Wrong Person」というタイトルは、体を細かくバラバラにされて(して)、特徴もIDも剥ぎ取られた(った)状態を、自分でふと客観視している様子です。「あれ、これ俺の尻の穴じゃないですよ。人違いじゃないですか?」